普段の生活では、あまり意識に上らないものですが、ジュネーブは近郊に葡萄畑が広がり、毎年多くのワインが生産されているという、ワインを愛する我々にとっては、大変恵まれた環境に囲まれています。 とかく完成品のみが云々されがちなワインですが、葡萄の生育から収穫、醸造、熟成といった段階を経て、ワインが出来上がっていく過程を身近に眺めてみよう、というのがこの企画の原点です。 ジュネーブ近郊のワイン醸造家に協力してもらい、今年1年間を通して葡萄の生育の様子をつぶさに観察しながら、自分達の手で葡萄を摘み取り、醸造工程に立会い、ワインに 仕上げるまでをフォローしていきます。そして、観察してきた内容は、このサイトを通して、JCG会員の皆様にお伝えしていく予定です。
 さあ、あなたも、我々ワインクラブと一緒に、葡萄の、そしてワインの勉強を始めようではありませんか!(2009年3月)
更新日:2010年2月8日
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6月6日(土) 曇り
 昨晩から降り続いた降雨は25ミリ。雨の中での観察会を覚悟していましたが、明け方には雨が止み、曇り空の下とはいえ傘を持たずに観察会を実施することができました。
ワインクラブ幹事に専門書を見せるロシェさん
 いつも真剣に対応してくださるワイナリーのオーナーであるロシェさん、本日もとても気合が入っています。ワインクラブの訪問に備えて、本日のテーマである害虫に関する専門書までご用意くださっていました。
 これから畑に移動して、いよいよ観察会の始まりです。

ぶどうは自家受粉の植物... まずは、ぶどうの開花について。ぶどうはイネなどと同じ自家受粉の植物で、受粉に虫の手助けは必要ありません。自家受粉とは、木が風で揺れるときなどに自然発生するもの。花は茶色の「帽子」をかぶったような状態になっているので、おしべが発達して「帽子」を押し上げ、花が開けば30%の確率で受粉が可能とのこと。「花をゆすると帽子になっていた部分が手に落ちてくるんですよ」と、実際に「帽子」が手に落ちてくる様子を見せてくださいました。そして、この受粉の失敗を「花ぶるい」と呼ぶのだそうです。花ぶるいは、外から見てもわかりにくいようですが、小さな実しかできず、そのまま大きくならずに落下してしまいます。受粉の成功は気象条件に影響され、暑すぎたり、寒すぎたりすることが「花ぶるい」の原因なのだそうです。

  ぶどうの開花のタイミングは、株によって異なるし、更に同じ株でも枝の先は早く、根元は遅くなるのだとか。もちろんぶどうの種類によっても開花の時期は異なり、シャルドネは花が早く、メルローは遅いのだそうです。よくぶどうの開花から100日すると収穫可能といわれていますが、その起点は花が咲き終わってからというのが一般的ということです。

機械での作業はぶどうを傷めることもあるので、手作業が一番結実したぶどうに太陽の光をあてる作業 開花の後に重要となるのは、結実したぶどうを太陽に当てることだそう。特にジュネーブは北に位置しているため、放っておいても十分に光を浴びる南の地域とは異なり、ぶどうの第2枝の葉を落とすことで、ぶどうに太陽の光を当て、育成を助けているのです。また、そうすることで空気の流れが良くなり湿度が下がるので、病気対策にも役立つのだとか。ぶどうの木の上の部分については作業せず、ぶどうのできた周囲のみを作業するそうですが、手作業で行うこの作業は、人手と時間を要し、かなりの費用がかかるそうです。
 手作業の他に、2種類の機械を使う作業方法もあるそうです。1つ目は、タービンで高圧の空気を葉に当てる方法。圧力を受けた葉は、ちょうど雹で葉が痛むような感じになり、成長しなくなります。2つ目の機械は、ぶどうが少し大きくなってから使うもので、長く出てきている葉を吸い取りカットする仕組み。この機械を使うタイミングは、実ができて重くなり下に下がってきた時で、実が上にある状態で使うと、実の部分までカットされてしまいます。機械での作業ではぶどうへの被害をゼロにすることは不可能のようです。

ぶどうの害虫についてロシェさんの話を伺う 畑を移動し、今度はぶどうの害虫についてのお話です。ロシェさんの畑では大きな被害は受けていないそうですが、最も気をつける害虫は赤グモ(クモダニ)で、若木のときに刺されると成長が止まってしまうのだそう。その赤グモの天敵はてんとう虫です。また、アカリアンという小さい虫にも注意が必要とのこと。毎年、発生する時期を記録しておき、兆候があったらすぐに特殊なオイル(ミネラル入り)や菜種油を散布することで虫を乾燥させて駆除しているそうです。その他、蛾もぶどうの害虫で、開花の前に食べてしまったり、グルグルと糸を巻いてしまったりします。さらに、実を食べながら中に入っていき、その実を腐敗させるだけでなく、他の実にも伝染させてしまいます。

 害虫対策としてはフェロモン入りのワナを使っているそうです。ワナにオスを誘いこみ、数をカウントします。そうすることで、害虫の繁殖状況を把握し、薬が最も効果的に効く時期を確実に計るのだそうです。以前、この畑では合成薬剤を使用していたそうですが、環境への配慮、また、益虫も殺すことにより害虫を大量に発生させてしまうことから、使用を中止したということです。今は環境にやさしいものを使用。茶色のフェロモン入りカプセルを置き、オスをおびき寄せ繁殖率を下げるという方法もあるのですが、カプセルは高価で、天候にも左右されてしまうのだそうです。

アカリアンに侵された葉の表と裏 引き続き、ぶどうの病気に関するお話。この写真の葉は、アカリアンという虫が刺し、葉が反応し光合成ができなくなってしまった状態です。リースリングには発生しないが、ガメイには出る病気で、この症状が出たらオイルで駆除しているということです。反応が出ている葉を手にとって見ることができました。葉の表には凹凸が出て、裏は白くなっています。

その他、欧州では大きな病気が2つあり、いずれもカビによるものだそうです。気候と深い関連があるため、天候を細かくチェックする必要があるとのこと。一つはベト病。温度、湿度に関係が深く、胞子が飛んで拡がります。もう一つはウドンコ病で、温度に関連。南の地方に多いが、ぶどう栽培の広がりにより北の方でも出るようになったそうです。防止のためには硫酸銅や硫黄石灰を主成分とする薬剤を使うそうですが、硫酸銅は即効性は高いが、土壌に残存してしまう(制限値:2.4kg/ヘクタール)。そして100年以上前から青色のボルドー液がヨーロッパ中で使われていますが、これも地中に残ってしまう。硫黄も有効だけれど、益虫にも作用してしまうなど、それぞれ地球環境にとって良くない面があるということでした。
ぶどうの手入れを行う人たち
 「もっと病気の種類を実際に見せたいけれど私の畑は健康で、他に病気は出ていないのです。」とおっしゃるロシェさん。丹念に手入れをされているぶどう畑への誇りと自信のようなものが感じられた一言でした。そしてこの日も、ロシェさんの畑では、人手によるぶどうの手入れが丹念に行われていました。

製法の違いなど勉強しながら、試飲 畑の観察が終わると、待ってました(!)ワインの試飲会です。今回は赤ワイン8種類が用意されました。最初の2本はガメイで、ジュネーブ地域では長らく栽培されている種類。1本目はノーマルな作り方。2本目は2007年のガメイで、製法が異なる(4ヶ月樽熟成)ものです。タンニンが多く、ボディもしっかりしているのが特徴です。次の2本は、ピノ・ノワール。3本目は2008年もので、軽い仕上がり。飲みやすくアペリティフとしても使えますが、ジビエなど重いソースには合わない。4本目は2007年もので、樽で12ヶ月間熟成。このため若いものには出てこない味を持っています。続いての2本はガマレ(2008年と2007年 élevé en fût de chêne)。ガマレとは、ガメイ種とドイツ原産の白ぶどう品種レイシェンシュタイナー(Reichensteiner)を交配して出来たスイス固有の珍しい品種で、灰色がび病に耐性があり、濃い色調とポリフェノールを多く含み、しばしばスパイシーでしっかりしたボディーの赤ワインを作り出します。最後の2本は、カベルネ2007年の樽入りとメルロー。前者は甘みには欠けるが、複雑な味。この8本の中から、試飲会での採点を結果をもとに、JCG新年会に提供される赤ワインが選出されます。今回試飲した赤ワイン ・・・・・観察会を終えて
 毎回少しも妥協することなく真剣に応えてくださるロシェさんには、本当に頭が下がります。生真面目な職人気質が生み出すワイン。観察会を通じて、こうした作り手の顔が見えるワインに出会えたことは、貴重な経験になりそうです。次回はどんなぶどう畑に出会えるのでしょう?今から楽しみですね!