普段の生活では、あまり意識に上らないものですが、ジュネーブは近郊に葡萄畑が広がり、毎年多くのワインが生産されているという、ワインを愛する我々にとっては、大変恵まれた環境に囲まれています。 とかく完成品のみが云々されがちなワインですが、葡萄の生育から収穫、醸造、熟成といった段階を経て、ワインが出来上がっていく過程を身近に眺めてみよう、というのがこの企画の原点です。 ジュネーブ近郊のワイン醸造家に協力してもらい、今年1年間を通して葡萄の生育の様子をつぶさに観察しながら、自分達の手で葡萄を摘み取り、醸造工程に立会い、ワインに 仕上げるまでをフォローしていきます。そして、観察してきた内容は、このサイトを通して、JCG会員の皆様にお伝えしていく予定です。
 さあ、あなたも、我々ワインクラブと一緒に、葡萄の、そしてワインの勉強を始めようではありませんか!(2009年3月)
更新日:2010年2月8日
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1月30日(土)
 発酵が終わったばかりのワインを見せていただくと、透明ではなく、かなり濁っています。それは、液中に酵母をはじめとする微生物、鉄、銅といった金属や酒石、タンニン、アントシアン、さらにはコロイド状になって浮遊しているタンパク質等多くの物質が含まれているからで、この状態のままワインを瓶詰めしてしまうと、非溶解物質の沈殿、濁りや発泡など多くの問題が生じるそうです。ワインを安定した状態で保存するためには、トラブルの原因となる物質を取り除く清澄化という作業が必要ですが、一言に清澄化といっても、低温デブルバージュ、澱引き、コラージュ、遠心分離、濾過等々、様々な方法があり、対象となるワインの特質により清澄の方法を決めているそうです。今回の観察会では、清澄化の中でも特に重要な濾過=フィルター処理の説明をしていただきました。
 
 濾過には、その目的にあわせ、荒濾過、仕上げ濾過、無菌濾過と3つの段階があります。まずは大きな粒子の夾雑物を除去し、徐々に小さな粒子へと移行していくのですが、フッ素樹脂やポリプロピレンなどを素材とする非常に薄い膜から作る高性能フィルターが出現したことで濾過の精度が飛躍的に向上し、ワイン醸造は大幅な時間短縮と高い品質管理が可能となったそうです。
連続式真空回転ろ過機=filtre rotatif sous vide
 最初に見せていただいた濾過装置は、発酵前ブドウ果汁の不純物除去に使用されている「連続式真空回転ろ過機=filtre rotatif sous vide」という機械でした。直径2m、長さ3mほどの円筒型スクリーンの表面にケイ藻土の層を作り、内部を減圧することで外から内側にワインを吸い込んで濾過を行う機械です。沢山の小孔を持つケイ藻土の特性を利用して不溶物を吸着し濾過を行うのですが、ドラムの回転に連動してスクリーンに塗布されたケイ藻土が刃物で削り取られていくため、目詰まりを起こすことなく安定した処理量が確保でき、非常に濁った液体の処理に向いているそうです。

使用されるケイ藻土のサンプルケイ藻土濾過器の内部構造 2番目に見せていただいたのは、「ケイ藻土濾過器=Filtre à alluvionnage」という機械です。前述の連続式真空回転濾過機と同様にケイ藻土を使用しますが、この装置ではワインにケイ藻土を混入させて濾過を行います。密封された容器の中に取り付けられた多層構造の金属製円盤を使って、ワイン中の澱成分をケイ藻土に付着させて濾過をします。濾過をしながら連続的にケイ藻土を補給するため、常に新しい表面で濾過が可能です。この方式の利点は比較的濁った液体をスピーディーに濾過出来ることですが、濾過対象となる物質が14.0~36.2ミクロンと比較的大きいため、仕上げ濾過として使用するのは難しく、ロシェさんの所でも、発酵が終了したワインの荒濾過用として使用されていました。

板状フィルターの説明、厚紙状のろ紙をプラスチック製の2枚のプレートに挟み込み、それを何枚も重ねて使用する。 3番目は、「板状フィルター、別名ペーパー濾過=filtration sur plaque」といわれている装置で、ポンプ圧力を利用しセルロース繊維やケイ藻土でできた厚紙状のフィルターにワインを流して濾過をする方法です。濾材である厚紙の目の粗さを変えることで、荒濾過(2~20ミクロン)から仕上げ濾過(0.2ミクロン)まで行うことが出来ますが、流量や圧力の違いで濾過効率が変化したり、時間の経過と共に膜面に酵母や澱が付着し、処理能力が低下していくという欠点があります。一般的にこの装置は、瓶詰め直前の仕上げ濾過用として使われているようです。
膜状ミクロフィルター=Membrane Filtratiom
 最後は、「膜状ミクロフィルター=Membrane Filtratiom」と呼ばれている無菌濾過用の装置でした。均一な小孔を持つポリプロピレンやポリスルホン製の薄い膜を使ったカートリッジ式の濾過装置で、酵母や乳酸菌等のバクテリアまで完全に除去することができるそうです。他の濾過材に比べて単位表面積あたりの許容残渣量が極めて少ないのが特徴で、ワインに多量の澱が混じっている場合は前処理を行って除去しておく必要があるのですが、流量や条件にかかわらず同じ精度の濾過が可能で、装置の構造上、蒸気や熱湯を使った殺菌も容易なため、瓶詰め時の無菌濾過に使用されているそうです。

 以上4種類の濾過装置を見た後で、ロシェさんから、「濾過はワインの透明度や安定性を高めるために有効な手段ですが、方法を誤るとワインの色や香りに関与する物質まで失われてしまう危険性があり、細心の注意が必要です」と説明がありました。近年、ワイン生産者の中にはフィルター処理をしないことを標榜する生産者が増えていますが、フィルター処理を行わないということは、収穫したブドウが健全でなくてはならず、高い酸度を確保するために完熟前のブドウを収穫したり、高濃度の二酸化硫黄SO2添加が行われたりしていることを考えると、単にフィルター処理をしていないという理由だけで、良質で美味しいワインという判断を下すには無理があるようです。

発酵タンクから直接グラスへいよいよお待ちかねの試飲タイム 観察会の後は、清澄化途中のワインを発酵槽から直接グラスに注いでもらい試飲タイム。清澄化する前のワインは確かに濁ってはいましたが、ぎっしりと「うまみ」と「コク」が詰まっているようで、参加者は普段味わうことの出来ないワインを堪能しました。何種類ものワインを試飲するうちに、すっかり良い気分になってしまいました。